『母よ、』:物語はモヤッとした印象だが、役者の好演がキャラクターを引き立てている!

母よ、

「母よ、」を観ました。

評価:★★

「息子の部屋」、「ローマ法王の休日」のナンニ・モレッティ監督による自叙伝的作品。恋人と別れ、娘との関係も上手くいかず、さらに入院中の母の世話を抱えている女性映画監督マルゲリータ。アメリカから到着した主演俳優バリーとも、新作の撮影で確執が続く中、病院から母の余命宣告を受けてしまう。。タイトルを観ると、”母”が大きく中心にくる作品かと思いましたが、”母”だけではなく、様々な人のエピソードが絡み合ってくるヒューマン・ストーリーとなっています。

僕は人懐っこい人情劇が多いイタリア映画が大好きなんですが、独特のリズムを持っているモレッティ監督とは少々相性が悪いんですよね。基本はヒューマンストーリーを描く監督なのですが、ドラマ全体をどこか霞みかかったフィルターを一枚はさむようなボンヤリとした印象の作品に仕立ててしまうことが多いように感じるのです。初めて観たモレッティ作の「息子の部屋」はそうしたフィルターが、息子の死という現実に対し、どこか信じるに信じ得ないような空気感として上手く昇華していましたが、「ローマ法王の休日」はせっかく面白いコメディになるような素材を台無しにしてしまっているように思うのです。本作でも、”母”という中心的な存在がありながら、周りのキャラクターのどこかぼんやりとした物語感の中で、結局何を描きたいのか分からずに終わってしまっている。消化不良しか感じない作品になっているように思えます。

ですが、そうした中でも凛として立っている主人公マルガリータはなかなかよかったと思います。見た目はしっかり者なんですが、どこか満たされない心の空虚感が、恋人や母に対しても、仕事に対しても、距離感を取ってしまい、そのことで全てが上手くいかなくなる。それを母の存在によって再生していくわけですが、これは物語どうこうではなく、演じ手のマルゲリータ・ブイの好演に依るところが大きいと感じます。アメリカからやってくるタトゥーロ演じるバリーもいいですね。イタリア系の彼が、イタリア語がしどろもどろという設定もどこか可笑しさを誘うし、ハリウッド大作のちょい役でも光るコミカルさを魅せる彼の魅力は、バリーというキャラクターを通して、物語のいいエッセンスになっているように思います。

次回レビュー予定は、「64 前編」です。

コメントを残す